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【理想科学工業】決算書から円安による影響を読む

1月31日に理想科学工業について、22年3月期の第3四半期の決算発表がありました。
業績内容を見ていきましょう。

当記事で引用する決算関連資料
21年3月期 有価証券報告書
21年3月期 決算説明資料
22年3月期 3Q決算短信

3月決算(決算期間:4月1日~翌年3月31日)の会社です。
当記事で使用する金額は、百万円未満を切捨てています。

会社概要

主に印刷機器を取り扱っている会社です。
もっとも大きな事業に関しても、印刷機器事業となっています。

印刷機器事業はさらに、
・「オルフィス(世界最速の高速プリントを実現する、経済性に優れたオフィスカラープリンター)」を主としたインクジェット事業
・「リソグラフ(多枚数プリントの生産性を高める、高速デジタル印刷機)」を主とした孔版(こうはん)事業
に分けられます。

リソグラフは、印刷の元となる版(マスター)をつくり、内部の印刷ドラムに巻きつけ、紙を通して印刷を行うしくみ。

一般的なオフィス用紙やリサイクルペーパーはもちろん、ざら紙や厚紙、色紙など様々な紙質・厚さの用紙に対応しています。
封筒やのし紙、表紙用紙などにもプリントすることができるとのこと。

リソグラフを知る

このほかに、不動産事業、プリントクリエイト事業、デジタルコミュニケーション事業があり、印刷機器事業と合わせて4つの事業を行っています。

21年3月期 有価証券報告書 p.4

デジタルコミュニケーション事業については、21年3月期より開始しているとのことです。新規事業の創出を図って、今後売上規模の拡大を図っていくものと思われます。

21年3月期 有価証券報告書 p.64

4つの事業の売上規模ですが、印刷機器事業が圧倒的で98%を占めています。
業績分析などを見ていきますが、ほぼ印刷機器事業に関するものと言っていいでしょう。

21年3月期 決算説明資料 p.4


21年3月期の特殊要因

直近4年分の連結業績をならべて見ていきます。

■18年3月期:
売上85,507百万円
営業利益3,870百万円
親会純利益3,033百万円
■19年3月期:
売上83,900百万円
営業利益3,771百万円
親会社利益2,771百万円
■20年3月期:
売上78,066百万円
営業利益2,543百万円
親会社利益683百万円
■21年3月期:
売上68,434百万円
営業利益1,395百万円
親会社利益1,651百万円

新型コロナウイルスによる影響もあると思いますが、売上や営業利益は徐々に落ちてきています。

会社に残る最終的な利益を示す、親会社利益についても減益傾向にありますが、21年3月期は1,651百万円となっており、20年3月期の683百万円より増加していますね。

これにはいくつか要因がありますが、
・為替環境の改善(20年3月期は為替差損(そん)320百万円に対し、21年3月期は為替差益(えき)246百万円)
・雇用関連の助成金収入406百万円
・受取和解金336百万円
・過年度の法人税の受取246百万円
など。

臨時的な利益要因が多かったため、親会社利益は増益となっています。

印刷機器事業の状況

次に、売上の大半を占める印刷機器事業に絞って、見ていきましょう。

■20年3月期:
売上76,635百万円
営業利益1,951百万円
売上営業利益率2.5%
■21年3月期:
売上67,063百万円
営業利益817百万円
売上営業利益率1.2%

新型コロナウイルスによる影響もあって、売上、営業利益ともに21年3月期は下がっています。

売上に対する営業利益の割合を示す売上営業利益率は、21年3月期は1.2%になっています。コロナ影響が本格化する前の20年3月期でも、2.5%となっており低い水準となっています。

余談ですが、コロナ影響が出る前に策定していた、第七次中期経営計画(RISO Vision 22)において、22年3月期の目標は、売上86,000百万円、営業利益4,100百万円としていました。

売上営業利益率にすると4.8%になりますが、新型コロナウイルスによって市場環境が著しい変化があったものとして、21年5月にこの目標を取り下げています。

21年3月期 有価証券報告書 p.8


印刷機器事業は売上合計68,434百万円で、このうち国内売上が38,777百万円で、もっとも多くなっています。

ですが、アジアや欧州など海外比率も高く、積極的な海外展開がされています。
特にアジア、その中でもとりわけ中国に対する売上が大きくなっていますね。

21年3月期の中国での売上は9,339百万円で、前期より344百万円増えています。

21年3月期 有価証券報告書 p.66


21年3月期の地域別売上は、対前期でどうなっているのでしょうか。

アジアでは孔版事業が前期を上回りました。ですが、
・インクジェット事業はすべての地域
・孔版事業が国内、米州、欧州
で前年を割り込む結果となっており、厳しい市場環境であることが分かります。

今後は成長していく地域とそうでない地域があって、地域ごとの戦略をそれぞれ見定めていく必要があるかもしれません。

21年3月期 有価証券報告書 p.12


円安による影響

最後に先日発表された3Q(第3四半期)の業績を見ていきましょう。
3Q累計での業績が以下のとおりです。

■21年3月期3Q:
売上47,478百万円
営業利益▲47百万円
親会社利益▲215百万円
■22年3月期3Q:
売上48,920百万円
営業利益2,344百万円
親会社利益2,063百万円

22年3月期は、売上48,920百万円となっており、微増となっています。

営業利益や親会社利益も、対前期でかなり改善されています。
先ほど見てきた、ここ最近のトレンドとは一転しています。

主にドルやユーロの為替レートが円安になったことから、会社全体として増収になったとしています。

22年3月期 3Q決算短信 p.2

地域別に分解すると、どうなっているか見ていきましょう。

具体的な販売数などは分かりませんが、為替影響などで米州、欧州については、それぞれ34.4%、27.7%と、大幅に売上が増加しています。

22年3月期 3Q決算短信 p.2

では、円安による為替相場の変動は、どの程度プラスの影響が出ているのでしょうか。
前期の決算説明資料に、そのヒントがありました。

21年3月期 決算説明資料 p.23

ドルとユーロでそれぞれ1円動いた場合の、影響額が記載されています。

たとえばドルであれば、円安に1円動けば、ドルでの売上は変わらずとも、円で売上が134百万円増加することを意味しています。

ここで注意したいのは、この金額は通期(1年間)の影響です。
なので3Q分析を行ううえでは、3/4を乗じて計算していきます。

米州での売上

■21年3月期3Q:売上2,106百万円
■22年3月期3Q:売上2,830百万円(対前期+724百万円)

米州の為替変動による影響を見ていきます。

先ほど確認した決算短信において、22年3月期3Qのドル相場は4.99円の円安とありました。ここでは円安が5円進んだとして計算してみましょう。

5円×134百万円(円安が1円動いた時のドル影響額)=670百万円
670百万円×3/4(3Qの影響額)=502百万円

22年3月期3Qの売上が2,830百万円であり、対前期で+724百万円だったので、かなりの部分が、円安による売上増加の影響といっても過言では無さそうです。

欧州での売上

■21年3月期3Q:売上8,232百万円
■22年3月期3Q:売上10,458百万円(対前期+2,226百万円)

次に欧州売上です。

22年3月期3Qのユーロ相場は8.24円の円安とありました。
円安が8円進んだとして計算してみます。

8円×71百万円(円安が1円動いた時のユーロ影響額)=568百万円
568百万円×3/4(3Qの影響額)=426百万円

22年3月期3Qの売上が10,458百万円であり、対前期で+2,226百万円だったので、為替の影響は、米州売上ほど影響していないことが分かります。

ドルとユーロの為替影響を見てきましたが、いくつかの仮定の下に為替影響を計算しています。
厳密にはもう少し違う影響が出てくるかもしれません。

ただ影響額をおおよそ知るという意味では、このような分析も有効利用したいものです。

22年3月期 3Q決算短信 冒頭


なお、「収益認識に関する会計基準」を、22年3月期から適用されています。
この会計基準は、基本的に国内の会社すべてで適用されます(一部の会社除く)

会社によっては会計基準の変更があったために、売上が減少する会社があります。
理想科学工業については、この点売上への影響は限定的としています。